今回は口が悪くなるけど、それぐらいの体験をした。
今でも、あのブサイク顔のポメラニアンをときどき思いだす。
隣町にある大型商業施設に、母と買い物にいったときにその子と出会った。
ポメラニアンはかわいい顔が多い犬だけど、その子は本当にブサイクでまったくかわいくなかった。
初めてその子をみたとき、心の中で思った言葉はどれも酷いものばかりだった。
「うわぁーくそブスやんか」
「お前、マジでブサイクやな」
「鼻が長すぎだろ、どんだけ長いねんお前のその鼻」
「キツネ以上に長い鼻してるなぁ」
「本当にポメラニアンか?ほかに何か違う犬種が混じってないか?」
「スピッツの血か何か混ざってんのかな?」
「一般的なポメより体もはるかにデカイし、かわいくもないし」
「しかも生まれてから1年2ヶ月もすぎているし」
「そりゃ…売れ残るわなぁ」
「今までみてきたポメラニアンの中で、お前が一番かわいくないな」
その子をみたとき、これだけの酷い言葉が頭の中で思いついた。
今思うと、もはや悪口ではなくただの暴言だ。
ここまで、こんな酷い言葉を思いついたのは、この子が初めてだった。
本当にそれぐらい顔が悪かった。
それからしばらく、その子をじぃーと眺めていたら、後ろからほかのお客の声が聞こえてきた。
「めっちゃブスやん」
「これポメなん?スピッツか何かのミックスに見えるけど」
「これはかわいくないなぁー」
「鼻が長いなー」
「この鼻すごいな」
「この子を買う人っているの?」
「全然かわいくない」
ほかのお客も、私と同じことを思っていたみたいだ。
みんながその子をみたら「かわいくない」と口に出していたのを、よく憶えている。
一歳を過ぎているから、体が大きいのはしょうがない。
というか体が大きいのは、まだ何とかなる。
だけど、その子はめちゃくちゃ鼻が長い。
だからかわいくない!
きつね顔のポメラニアンの中には、鼻が長い子もたくさんいるけど、この子の場合は、ほかと比較しても圧倒的に長い。
はっきり言って鼻のせいで顔と体のバランスがおかしい。
今までたくさんのポメラニアンを見てきたけど、正直ここまで鼻が長い子は見たことがなかった。
だからポメラニアンにはまったく見えなかったし、私も最初はスピッツの血か何か混ざってんのか?と思った。
その日は、お互いガラス越しに見合って「早く売れたらいいなお前」と思いながら家に帰った。
家でのんびり愛犬のキリと過ごしていたら、ふとあの子のことを思い出した。
「キリ~。今日すごいポメにあったよ」
「あそこまでブサイクだなと思ったのは初めてだった」
「キリも毛が抜けてやせ細って、見栄え悪くなってるけど」
「それでも、お前のほうがかわいいな…」
「あの子は売れると思うか…?」
「新しい飼い主がみつかってくれるといいな」
ぼーっとしながら眠りについた愛犬の寝顔を見ていたら、だんだんと気になり始めた。
それから日に日に考える回数も増えてきたので、あの子に会いにいった。
初めてあったときと同じ場所で静かにくつろいでいる。
近寄っても吠えないし、尻尾も振らない。
「物静かで大人しいなお前」
「でも、尻尾ぐらいは振らんと誰からも買い取ってもらえないぞ」と言っても、
じーっと私をみたあと、目を瞑って寝る始末。
「おもろいなこいつ」と思いつつ、この日からこの子が気になるたびに、ペットショップに通い詰めた。
「お前まだいるんか!次きたときも居そうだな」
「早く飼い主みつけんとな」
「やっぱり、まだいると思ったわ」と、
会うたびに話しかけて何度も通い詰めるうちに、私のことを覚えたのか自分から尻尾を振ってきて近づいてくるまでになっていた。
初めてみたときは「鼻長すぎやしブサイクすぎだろ!」と思っていたのが、
かわいくて早くいい飼い主がみつかることだけを願っているまでに変わっていた。
時間があるときは会いにいって様子を確認した。
仕事終わりに会いにいったこともある。
「元気か?今日も会いに来たぞ!」
「今日もいつもと変わらんな」
「また今度会いにくるからな」
このときは、もう遠くからでも私に気づいたら尻尾を振るまでの関係になっていたが・・・・・
別れは突然やってきた。
次に会いにいったときはいなかった。
最初は、ほかの場所に移されたと思った。
でも店内のどこを探してもいない。
何度も通い詰めることで、店員さんとも話すようになっていたのですぐに聞いた。
「5日前にやっと飼い主さんがみつかりました!本当によかったです!」と嬉しそうに話す店員さん。
私もその場では「本当ですか!よかったですね!」と嬉しそうに話すも、心の中では寂しさですごく落ち込んだ。
駐車場に停めてある車に乗り込むも運転する気力がなく、ただぼーっとしながら座っているだけの状態。
「飼い主がみつかったんか」
「そうか、よかったな・・・」
「そうか・・・」
20分ほど車の中で独り言をいったあと、車を走らせ家に帰った。
家についても落ち込んでいた私は何もする気力がなく、その日はすぐに寝た。
あれからもう3年がたった。
今でも時折あの子のことを思い出して考えるときがある。
「あれから元気にしているか?」
「またお前に会いたいな」